弊社は、創業以来28 年にわたり、会計事務所の記帳代行業務の生産性向上と顧問先の自計化推進を支援する会計ソフトを開発してきました。財務会計システム「キーパー財務」と経営者専用財務管理ツール「キーパー経営羅針盤」は、”財務の力を経営の力に”というコンセプトの基に開発し、多くの会計事務所で導入されています。今回は、2016年4月にリリースされた「キーパー財務」のオプション機能「中期予算計画作成システム」と「キーパー経営羅針盤クラウド」の詳細について、弊社創業者で代表の椛澤が「月刊実務経営ニュース」の取材で語った内容をご紹介します。新機能の紹介だけではなく、管理会計をベースとした会計事務所の成長戦略についても語っていますのでぜひご一読ください。
■実績ベースの中期予算計画自動作成システムをリリース
■椛澤 均(かばさわ・ひとし)
株式会社シスプラ代表取締役社長。昭和32 年生まれ。群馬県高崎市出身。明治大学経営学部経営学科卒。会計事務所勤務、関連のコンピュータ会社への転職を経て独立。昭和63 年4 月に株式会社システムプラニングを設立し、代表取締役に就任。平成11年5 月、株式会社シスプラに商号変更。パソコン黎れい明めい期から、会計事務所のパソコン活用と顧問先企業の自計化推進をテーマに、会計のプロが使う財務会計ソフトの開発に一貫して取り組み続けている。
今回は、4月に発表された新製品「中期予算計画作成システム」「キーパー経営羅針盤クラウド」を中心に、これらを活用した会計事務所の新しい付加価値サービスの可能性などについて、お話をお聞きします。まずは、新製品開発の経緯からお聞かせください。
椛澤 当社の財務関連製品は全て「財務の力を経営の力に」というコンセプトのもとに開発しております。つまり従来の決算申告を目的とした制度会計から、より経営に役立つ管理会計を重視した製品づくりを目指しているということです。現行システムの「キーパー財務」を2009年にリリースしたときに「キーパー経営羅針盤」という経営者専用の財務管理ツールをバンドルし、経営者が自社の財務情報を自分のパソコンでいつでも自由に見ることができるようにしました。「キーパー経営羅針盤」はインターネット経由でデータを取得することで、3期分の試算表や元帳などの会計帳簿のほか、100種類以上の財務分析帳票を閲覧することができる画期的なものでした。
―― 顧問先の経営者はさぞ喜んでくれたでしょうね。
椛澤 ところが期待に反して「キーパー経営羅針盤」はあまり活用されませんでした。最初はこのシステムの利用価値が、まだ経営者の方に理解されていないからだと思いました。ピーアールが足らない。パートナーの会計事務所さんの理解も足らない。しかしそれは全て間違いだと気が付きました。本当に経営者の役に立つ道具であれば、黙っていても自然と利用が広まっていったでしょう。利用されなかったということは、やはり何かが足りなかった、必要とされなかったからだと思います。
―― 何が足りなかったとお考えですか。
椛澤 「キーパー経営羅針盤」は「キーパー財務」で作成することのできる全ての会計帳簿を参照印刷できます。しかも3期分のデータが保持されているので、前期、前々期にさかのぼって、あらゆる会計帳簿を確認することができるのです。しかし、確認できるのは全て過去の会計帳簿、つまり結果の参照だけなのです。自分も経営者ですから、今なら分かります。結果を確認するだけなら一度で十分だと。後から何度も確認する気にならないと。そして経営者にとって大事なのは、過去よりも未来なのだということです。
―― そこに新製品開発のヒントがありそうですね。
椛澤 そのとおりです。未来を見るとは、目標を立ててそこを目指すということです。そして財務会計の目標とは予算のことです。毎月予算と実績を比較することで現状分析と対策を検討し、このままいくとお金は足りるのか、目標は達成できるのかと未来を予測する。このように目標となる予算と実績が明確化されることにより、財務はまさに経営の羅針盤となるわけです。
プロオプションのメニュー画面。6年72か月分の中期予算作成や、他社仕訳データの取込み、月次決算に便利な一括監査機能も装備している
キーパー経営羅針盤のメニュー画面。様々な予測損益計算から導き出された翌月以降の現預金の推移を確認できる
■実績値から予算計画を作成
―― それでは、新製品のなかの「中期予算計画作成システム」からご紹介いただけますか。
椛澤 これは、「キーパー財務」のプロオプションという会計事務所専用機能として開発したものです。顧問先企業の決算データから借入金の返済が可能な利益が自動的に導き出されるので、それを目標利益として登録するだけで、「キーパー財務」が持っている変動損益構成比率から収支分岐点売上を自動計算し、さらに科目構成比率や月次発生比率などの実績値から6年、72カ月の予算計画書をわずか数分で作成することができます。
この機能を使えば、会計事務所は自計化先か記帳代行先か、あるいは会社の規模の大小などに関わりなく、全ての顧問先企業に目標となる予算数値を提示し、予実対比をベースとした新たな付加価値サービスへの取り組みが可能となります。すなわち、財務MAS業務をスタートすることができるわけです。
―― それは極めて画期的なシステムです。
椛澤 経営計画を作成するシステムは数多くありますし、アプローチの手法もさまざまあることは認識しております。ただ、私たちは財務会計ソフトメーカーですから、財務会計だからできる予算の立て方を考えました。それは財務会計の実績データから、企業が絶対に実現しなくてはならない目標を導き出すということです。
―― 絶対に実現すべき目標とは、具体的には何でしょうか。
椛澤 簡単に言うと、借入金を返済してもキャッシュがショートしない収支分岐点売上を目標とするということです。借入金の返済は経費ではないため、利益で返さなければなりません。正確に言うと、利益により手元に残ったキャッシュで返済しなければなりません。つまり、税引き後の利益です。そこから税引き前の利益、その利益を得るために必要な売上というように逆算して、予算計画書を作るわけです。財務会計は、その計算に必要な全ての実績比率を持っています。しかも、目標の売上金額が決まると、さまざまな構成比率に基づき、勘定科目別、補助科目別、月別、部門別などに自動的に展開して細分化することもできます。つまり、目標の利益金額さえ決めれば、実績から逆算して部門別・月別の予算計画書が自動的に作れてしまうのです。
―― それはすごいですね。
椛澤 はい。その会社の現在の実力を表す実績から求めた金額なので、この売上が達成きないと借入金の返済ができず、資金がショートすることになります。ですから、絶対に達成しなくてはならない必達目標といえます。これまでは、過去を集計し結果を見せるだけだったのが、結果を予算と比較することで、未来に目を向けることができるようになるわけです。
―― それは大きいですね。これだけの売上を達成しないと会社の借金が返せないという経営のボーダーラインを、会計事務所が顧問先企業の経営者に明確に示せるわけですね。
椛澤 そのとおりです。返済に必要な売上目標が明確に分かるので、毎月の実績が極めて重要な価値を持つようになります。ですから、会計事務所の毎月の処理が、とても付加価値の高い業務に生まれ変わる可能性があるということです。
―― 担当者が月次監査で経営者と話すときの重要な資料にもなります。
椛澤 ええ。これまで財務に関心のなかった経営者が、必ず財務に関心を持つようになると思います。なお、ギリギリの目標といえる「必達予算」の他にも、できればこのぐらいの利益を上げたいという「目標予算」、このくらいの利益になれば理想的という「理想予算」が設定できます。この3つの予算と実績を、常に比較することができます。例えば、必達予算はクリアできているが、次の目標予算にはまだ届かないといったことが、「キーパー経営羅針盤」ですぐに確認できます。
■スマホ、タブレットから経営情報を確認
―― 次に、「キーパー経営羅針盤クラウド」についてお聞きします。
椛澤 「キーパー経営羅針盤クラウド」は、ウェブブラウザ上で動くウェブアプリケーションです。クラウド版も、従来の「キーパー経営羅針盤」の機能をそっくり継承しています。帳票の参照、印刷、集計など、全ての操作がブラウザ上で行えます。入力と訂正ができないことを除けば、財務会計システムそのものといえます。クラウド化した理由は、ユーザーの経営者が、経営情報をどこにいてもすぐに見られるようにしたかったからです。従来のパソコンだけでなく、iPadなどのタブレットやスマートフォンから、知りたい情報をいつでも確認できるので、利便性は格段に上がりますし、経営判断を下すための時間も短縮されるでしょう。
―― 将来的には、会計業界の全てのアプリケーションがクラウド化されるのでしょうか。
椛澤 そうなると思います。ただ、財務会計ソフトはデータのエントリがとても多いので、どうしても入力がネックになります。現状では、クラウドで動かした場合の入力速度が、ローカルPCで動かした場合に比べてひどく遅くなります。そのため、入力のない「キーパー経営羅針盤クラウド」を先行してリリースしました。
今後、回線速度もクラウド上のサーバーの機能もどんどん上がっていくので、この問題はいずれ解決されるでしょう。そうなれば、全てのアプリケーションをクラウド上で動かし、クラウド上のさまざまな情報を共有する形に、必ず進むと思います。
―― フィンテックが注目されていますが、御社での取り組みはどのようにお考えでしょうか。
椛澤 フィンテックの定義は極めてあいまいですが、銀行の取引情報やクレジットカード決済情報なども、今後全てクラウド上で統合されていくことになるでしょう。弊社もそれを実現するための準備を現在進めております。ただし、明確にしておきたいのは、これらはインプットの問題であって、会計事務所にとってより重要なのはアウトプットだということです。いかにお客様である顧問先企業に有益な情報とサービスの提供ができるか、それが弊社の「キーパー財務会計」にとって最も重要なテーマであると自分は考えております。
■会計事務所の収益拡大にも貢献
―― この「中期予算計画作成システム」は、会計事務所の職員が簡単に使えるものでしょうか。
椛澤 はい。目標利益を決めるためのシミュレーション画面に6年間の目標金額を入力するだけで、72カ月分の部門別や勘定科目別の予算計画書が自動的に作成されます。
―― 誰でも簡単に予算計画書が作成できれば、全ての顧問先にこのサービスを提供することもできますね。
椛澤 仰おっしゃるとおりです。経営計画作成やコンサルティングのように、一部の顧問先だけに提供する特別なサービスは付加価値が高く、たくさん受注できれば収益の柱になるかもしれません。しかし、会計事務所の職員なら誰でもできるというような仕事ではないように思えます。この「中期予算計画作成システム」を活用すれば、顧問先の決算書が作れる会計事務所の職員なら誰でも簡単に予算計画書を作成することができますし、これまで漠然としていた数値目標を明確にすることで、毎月の会計事務所の仕事が経営者から喜ばれ、やりがいのある仕事に変わっていくと確信しています。
また、月次業務に対する経営者の意識が変わってくるということは、会計事務所の月次処理業務の付加価値が高まり、収益アップや新規のご紹介などにつながる可能性は高いと思います。
―― 「中期予算計画作成システム」と「キーパー経営羅針盤」を活用した収益アップの具体例としては、どのようなものがありますか。
椛澤 先ほど申し上げたとおり、「中期予算計画作成システム」は、会計事務所が使う「キーパー財務」のプロオプション機能のひとつです。プロオプションの利用料金は月額3000円ですが、今年の年末まで
はお試し期間として無償です。
顧問先企業側には「キーパー経営羅針盤」が必要です。「キーパー財務」を導入して自計化されたお客様は、製品にバンドルされている「キーパー経営羅針盤」がご利用いただけます。記帳代行先の経営者に使っていただく場合は、会計事務所経由で「キーパー経営羅針盤」を新規に導入していただく形になります。
「キーパー経営羅針盤」は1年間無料で利用できるので、例えば決算が終わったら、その実績データに基づいて予算計画書を作成し、それを印刷してお客様に見せて、無料だから試しに1年間予実管理をやってみませんかとご提案します。1年試したうえで役に立つと判断されたら、例えば月額5000円で財務MASの追加契約をしていただきます。当社から会計事務所には、キーパー経営羅針盤を月額1000円で提供するので、4000円の差益が出ます。会計事務所側の「キーパー財務」の保守料金が2000円、プロオプションが3000円ですから、1システムの運用コストは月額5000円になります。したがって、2件の顧問先経営者に「キーパー経営羅針盤」を使っていただくだけで、事務所の費用負担は全て賄えて利益が出る計算です。
この予算計画書作成業務は、年に2回発生します。まず決算確定前に仮予算を作り、翌期の入力を開始します。お客様には決算確定まで、その仮予算に基づいて予実対比をしていただきます。そして決算が確定したら、新たに本予算を作り直して仮予算と差し替えるという流れです。その2回分の予算作成費用として、例えば3万~5万円程度いただきます。部門管理や本支店管理をしていれば、もう少し加えてもいいかもしれません。さらに、年に2~3回、財務会計データの見直しをします。例えば、今まで部門管理をしていなければ新たに提案したり、集計に役立つ補助科目を追加したりすることで1万~2万円の報酬を得ます。
このようにして、顧問先1件あたりの報酬を年間12万円くらいアップできたら、事務所全体ではかなりの増収になると思います。月1万円くらいに設定するのは、個人事業者も法人も、会社の規模の大小は関係なしに、広く浅くと考えているからです。
■会計事務所の永遠のテーマ「付加価値サービス」
―― 借入金の返済というキャッシュフローを考慮した予算計画書の提供から、会計事務所の新たなビジネスチャンスが生まれそうです。
椛澤 付加価値サービスはずっと昔から模索し続けた会計事務所の永遠のテーマでした。製販分離も自計化推進も究極的には付加価値サービスに取り組むための時間をつくることを目的としていました。しかし肝心の付加価値サービスとは何をすればよいのかが分からないまま、ずっとやり過ごしてきたのが実情だと思います。そして今、ようやく会計事務所の付加価値サービスが明確になったと感じています。普通の会計事務所の普通の職員が普通の顧問先企業に付加価値サービスを提供する。最初からプロのコンサルタントにならなくていいのです。予実対比の中からお客様と一緒に問題点を見つけ、対策を考え、経験を積んでいく。そしていつか本格的なMAS業務を行うことができるようになる。今回の取り組みはそんな大きな第一歩になると思います。
―― 今回のシステムを多くの会計事務所に活用してもらうためのプロモーション活動はされていますか。
椛澤 4月の新製品発表会以来、全国各地の「キーパー財務」ユーザー会計事務所からすぐにでも取り組みたいと、所内研修会の申し込みが殺到しています。担当営業が日程を調整し、私も全国各地を飛び回っている状態です。スカイプなどを活用したネット研修会も実証実験済みなので、今後は個別事務所ごとのネット研修会が増えてくるでしょう。
新規のお客様向けにはセミナーや事例発表会などを企画していきたいと考えておりますが、それまで待てないという方は、ご連絡いただければ個別に対応させていただきます。
■キーパークラブパートナーズの強化
―― 最後に、貴社の今後の成長戦略について伺います。
椛澤 繰り返しになりますが「財務の力を経営の力に」というコンセプトのもと、これからも会計事務所の現場の仕事をイメージしながら、その顧問先の経営者の方々に、より役立つシステムを開発していきます。そのためには会計事務所ユーザーにより構成されているキーパークラブパートナーズとの関係性をより密接にするとともに、パートナーズの会員を増やしていけるよう全力を尽くします。
―― 本日は貴重なお話をありがとうございました。今後も中小企業の経営に役立つ画期的な製品を世に送り出すことを期待しています。